この設計課題から「商店街」「陶芸作家のための工房」「店舗」「併用住宅」という4つのキーワードが読み取れます。さらに、3年ぶりに「鉄筋コンクリート造(ラーメン構造)」が指定されました。また、二級建築士試験では初めての出題となる「3階建」は大きなポイントであり、計画力と作図力が大きく問われる課題と考えられます。
■商店街
昨今の製図試験の傾向として、社会的背景を反映した課題が多く出題されています。近年、「シャッター街」という言葉に象徴されるように、各地の商店街が衰退の傾向にありますが、「商店街」というテーマは、経済産業省が今年公表した「地域商店街活性化法案」や国土交通省の「中心市街地活性化のまちづくり」に焦点をあてた課題といえます。地域の魅力を発信し、人材育成やコミュニティ形成の場として地域に貢献できる店づくりが望まれます。
■陶芸作家のための工房
作品をつくるためのスペース、作業机、椅子、作品保管棚、道具保管棚、窯を置くスペース、流し台など、室空間においては十分な広さや設備、明るさが必要です。また、作家のためのスペース以外に、陶芸教室や地域住民が作った作品の展示スペースなど、様々な室空間が要求されることも視野に入れておく必要があります。
実在する「陶芸工房」には、展示や販売のスペースをもち、生徒を募って教室や講座を開催するなど、工房を開放している例が多くみられます。それらは工房の一角に設置されることもあれば、独立した室として設置される場合もあります。平成14年に、木造ではありますが「工房のある工芸品店併用住宅(木造2階建)」が出題されており、同様のスペースが要求されました。また、「工房」は作家本人と家族のスペースだけでなく、不特定多数が集う場として公的な機能をあわせもつことが考えられます。最近話題のスローライフや手づくり、オンリーワン、土=自然とのふれあい、趣味、生き甲斐を見つける場として、福祉拠点にもなり得るなど社会的な一面をあわせもつ「工房」と考えられます
■「店舗」
実務では、「消費者の視点にたった店づくり」など店舗設計のポイントは沢山ありますが、設計製図試験で要求されるのは、店舗面積や階数、店への入りやすさ、客とサービスの動線、陳列棚などの家具や設備が要求どおり適正に配置されているか、などです。店舗と工房・教室が隣接する場合は、そのゾーニングも重要なポイントになります。作家の作品を使った喫茶コーナーなどの要求も考えられます。
また、誰もが使いやすいユニバーサルデザインとすることが重要ですが、バリアフリーを考慮する場合は段差解消や道路からのアプローチなど、主に移動に関わる配慮が必要です。
■「併用住宅」
「併用住宅」として気をつけなければならないのは、店舗部分と住宅部分の関係です。過去の課題では、「出入口を明確に分離」、「屋内で行き来できるようにする」ことが要求されています。下足と上足の履き替えや、家族のプライバシー、防犯などを考慮に入れる必要があります。また、住宅として基本的な要素である、「家族の団らんを大切にした空間の計画」や「友人を招いて楽しみながら料理・食事ができる空間の計画」等が考えられ、これらが要求されるかどうかによって、面積構成や配置にも配慮が必要になります。また住宅においても、誰もが使いやすいユニバーサルデザインを考慮した計画とすることが重要です。
■設計条件の想定
<設計条件>
課題の最初に記載される最も重要な設計条件として、
・店舗部分と住宅部分は、出入口を明確に分離する。
・店舗部分と住宅部分は、屋内で行き来できるようにする。
・店舗部分の独立性に配慮する。
・店舗部分は、近隣住民の交流の場となるように計画する。
・店舗部分は、バリアフリーを考慮する。
・店舗部分(教室など)・住宅部分の居間は、日当たりに配慮する。
・店舗部分を前面道路と関連付ける。
・テラスやイベントスペース(ポケットパーク)を設け、店舗の一部分と一体的に利用する。
・既存樹木に関連させた配置計画とする。
・アプローチ指定・制限などが考えられます。
<敷地>
敷地は、18m×18mのように、メーターモジュールの寸法で出題されることが多いようです。過去のRC造の出題から、敷地面積は300〜400m2程度が想定できます。
RC造では二面道路の出題が圧倒的に多く、道路で表と裏を挟まれた敷地や角地、商店街であることから「歩道」の接道も想定でき、東西南北のどれに面するかによつて多様なパターンが考えられます。また、敷地の一部を緑地スペースとし、建築物を制限することも考えられます。
<延べ面積>
二級建築士が設計できる「鉄筋コンクリート造3階建」の延べ面積は300m2以下であり、これを超えるものは一級建築士でなければ設計できないと建築士法に規定されています。設計製図の試験においても、この300m2以下の範囲で出題されています。過去のRC造の出題では延べ床面積230〜290m2程度のものが大半です。
A2の答案用紙に作図するため、これ以上に大きな敷地面積や延べ面積では用紙に納まらないことも面積範囲を制限していると思われます。
<構造、階数及び建築物の高さ>
鉄筋コンクリート造3階建が指定されています。高さについては、二級建築士が設計できる「3階建」は「建築物の最高高さ13m以下、かつ、軒高9m以下」と建築士法に規定されていますので、この範囲内で出題されると想定できます。
<所要室>
店舗部分は「工房」(作業室)はもちろんですが、その他、展示室(スペース)、販売スペース、教室、準備室、多目的室、喫茶コーナー、湯沸室、倉庫、客用便所、一部の室の天井高指定・上階を設けない、などが考えられます。
住宅部分は家族構成によって異なりますが、基本条件として、玄関、居間、食事室、台所、夫婦室、高齢者室、子供室、予備室、納戸、浴室、洗面脱衣室、便所などがあります。特に居間、食事室、台所は1室としてもよいと条件されることも考えられます。これに店舗部分と行き来できる屋内玄関の要求が考えられます。それぞれの室機能を理解し、適切な動線計画を行うことが大切です。
<屋外スペース>
テラス、イベントスペース、表通りと裏通りがある場合は通り抜け通路、車いすの利用に配慮したスロープなどが要求されることが考えられます。
<駐車・駐輪スペース>
店舗用、住宅用それぞれに、駐車スペース、駐輪スペースが要求されることが考えられます。
車椅子の利用に配慮する場合は、乗降のための広い面積の駐車スペースが必要です。
■要求図面
課題発表時に公表されていた「要求図面」が平成19年度から公表されなくなりました。しかし、前回RC造が出題された平成18年度の課題を参考とすると、1階平面図兼配置図、2階平面図、立面図、断面図、面積表、仕上表、主要構造部材表が要求されています。今年度は、本試験の問題を見るまで描く図種が分かりませんが、おおよそ同様の要求図面が考えられます。
(注)答案用紙には、「1目盛が5ミリメートルの方眼が与えられている。」と公表されています。
◎「主要構造部材表」について
鉄筋コンクリート造の設計では、構造計算に基づき導きだした配筋などを示す部材リストを作成します。この部材リストは、一般に、部材形状・主筋本数・フープ(梁にあってはスターラップ)の間隔や鉄筋の大きさを一覧にしたものです。
平成18年度の課題では、「主要な柱断面、2階床大梁断面、主要な外壁の厚さ、2階床スラブの厚さ」の寸法記入が要求されました。今年度も同様と考えられますが、3階部分も要求される可能性があります。
試験の中で実際に構造計算をすることは難しいですが、柱、梁などの形状、配筋、鉄筋量が適当がどうか判断できる能力を養うことも大切です。
4時間30分という限られた時間の中で、複数のテーマをもった3階建ての建物を計画し、平面図3面を描き上げるだけでも大変な作業です。本年度の課題は、エスキースと構造の理解に重点を置きながら、作図のスピードを確実に身につけ、完成度を高める必要があるといえます。
■過去の類似課題
過去の出題を振り返ってみると、平成18年に出題された「地域に開かれた絵本作家の記念館」、平成14年の「商店街に建つコミュニティ施設〔鉄骨造(純ラーメン構造)2階建〕北陸・東海・九州ブロック」、同年「工房のある工芸品店併用住宅(木造2階建)」が今年の課題に類似しています。過去の出題は、建物全体の面積構成、所要室の要求など参考にできることも多く、概要を示しておきます。
■平成18年の課題概要
「地域に開かれた絵本作家の記念館」 |
敷地
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22.00m×21.00m 462.00m2 |
接道:南側(幅員6.0m) 北側は公園に隣接 |
延べ面積 |
260m2以上290m2以下 |
人員構成 |
館長1名、事務員2名、ボランティアスタッフ(常時2名で交代制) |
所要室
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1階
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エントランスホール、展示室、収蔵庫、休憩・談話コーナー、事務室、更衣・休憩室、便所、多目的便所 |
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2階 |
創作室、児童図書室、スタッフ室、倉庫、授乳室、便所 |
駐車、駐輪スペース |
車いす使用者用1台、サービス用1台、自転車10台 |
階段、エレベーター、スロープ、屋外テラス |
■平成14年の課題概要
「商店街に建つコミュニティ施設」 〔鉄骨造(純ラーメン構造)2階建〕 |
敷地
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20.00m×18.00m 360.00m2 |
接道:北側(幅員6.0m) 南側(幅員8.0m) |
延べ面積 |
250m2以上290m2以下 |
職員構成 |
管理責任者1名、事務員2名 |
所要室 |
1階 |
玄関、事務室、多目的室、湯沸室、便所、車いす使用者用便所、倉庫 |
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2階 |
和室、洋室、湯沸室、便所 |
駐車、駐輪スペース |
小型乗用車(サービス用)1台、自転車10台 |
エレベーター・スロープ・通り抜け通路・屋外イベントスペース |
「工房のある工芸品店併用住宅」 (木造2階建) |
敷地
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15.00m×20.00m 300.00m2 |
接道:北側(幅員6.0m) |
延べ面積 |
190m2以上230m2以下 |
家族構成 |
夫婦、地域活動に参加し来客が多い |
所要室
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1階
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店舗 |
売場、工房、準備室、便所、洗面所 |
住宅 |
玄関、和室、納戸 |
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2階 |
住宅 |
居間、食事室、台所、寝室、書斎、浴室、洗面脱衣室、便所 |
駐車、駐輪スペース |
小型乗用車3台、自転車5台 |
店舗は天井の高い空間 |
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