設計製図答案例>平成20年課題

高齢者の集う趣味(絵手紙)室のある 二世帯住宅(木造2階建)について 2008.6.11(水)

平成20年二級建築士「設計製図の試験」の課題が発表されました。
全ブロック(全都道府県)共通の「高齢者の集う趣味(絵手紙)室のある 二世帯住宅(木造2階建)」です。

この設計課題から「高齢者が集う」「趣味(絵手紙)室」「二世帯住宅」という3つのテーマ(キーワード)を読み取ることができます。

高齢者が集う
昨今の製図試験は、世相を反映した課題が出題されることが多いですが、今年度の課題も高齢者に係る諸問題の一端に焦点をあてた課題といえます。
「高齢者が集う」ことから、専用住宅でありながら、在宅で孤独になりがちな高齢者のコミュニティ形成の場として、公的な一面をあわせもつ住宅です。また課題名からは、「高齢者」=「親世帯」と捉えられ、高齢者が使用する住宅として、身体能力を考慮した計画が必要です。高齢者の年齢や身体能力の設定によって、手すりやスロープの設置による段差解消、道路からのアプローチなど、主に移動に関わる配慮が必要となります。また、当然ながら家族のプライバシーや防犯も確保されなければなりません。

このような高齢者が集う趣味(絵手紙)室のある 二世帯住宅(木造2階建)は、高齢者の自立やコミュニティ形成を図り、また高齢者各々の家族を含んだ近隣住民の憩いの場としての役割を担うことになります。

趣味(絵手紙)室
「絵手紙」とは、絵を書き添えた手紙のことで、主に葉書を使い、絵に簡単な文を添えたものです。形式の制約はないので、上手い下手に関係なく、自由に表現できるところが人気の所以です。一般的にはコンピュータは使用せず、手書きで、特別な材料も必要とせず気軽にすぐに始められるので、室空間においても大がかりな設備は必要ありません。要求された面積の居室と机と椅子、十分な明るさがあれば良いということになりますが、墨汁や水彩絵の具の使用、飲み物の提供などを行うことを考えて、シンクやコンロなどの設備や、展示のためのスペース等が要求されることも視野に入れておく必要があります。

平成16年に、「趣味(フラワーアレンジメント)室のある専用住宅(木造2階建)」が出題されています。「趣味室」のある課題で共通することは、趣味室を個人だけで使用するのではなく、友人を招いて鑑賞しながらサロンを開いたり、生徒を募って教室や講座を開催する場合が多いことです。今年度の課題は「高齢者が集う」とあることから、近隣在住の高齢者やその家族、老人ホームの利用者が訪問の場合は施設の介護スタッフも集う場合があることなども考えられます。

二世帯住宅
二世帯住宅として気をつけなければならない問題として、「世帯、親子のふれあいや家族の団らんを大切にした居間、食事室、台所の計画」や「家族・友人等で楽しみながら料理・食事ができる空間の計画」「高齢者の安全な生活」等が考えられ、これらの設計条件が要求されるかどうかによって、室の面積構成や配置にも配慮が必要になります。また、条件によっては家族のプライバシーを保ちつつ、趣味室へ行き来できるよう計画することが大切です。
二世帯住宅と一口に言っても、玄関や水回り、食事空間を世帯間で専用とするか共用とするか、その組み合わせによっても様々です。段差解消についての配慮は必要ですが、誰もが使いやすいユニバーサルデザインを考慮した計画とすることが重要です。

平成17年に出題された「近隣の街並みに配慮した車庫付二世帯住宅」という課題からも、自立した高齢者の生活を配慮する傾向にあることがうかがえます。

設計条件の想定
<設計主旨>
課題の最初に記載される最も重要な設計条件として、
 ・親世帯と子世帯の玄関、居間、食事室、台所を共用する。または専用する。
 ・親世帯と子世帯の生活空間を、上下階で区分し、内部で行き来できる階段を設ける
 ・趣味室は、近隣の高齢者、住民、二世帯の家族の交流の場となるように計画する。
 ・趣味室の独立性に配慮する。
 ・1階部分を高齢者の利用に配慮、または将来の利用に配慮した計画とする。
 ・高齢者室の日当たりに配慮する。
 ・趣味室を緑地スペースに関連付ける。
 ・テラスを設け趣味室と一体的に利用する。
 ・既存樹木に関連させた配置計画。
 ・アプローチ指定・制限。
などが考えられます。

<敷地>
敷地は18.2m×18.2m程度が多く、10間×10間のように尺貫法モジュールの寸法で出題されることが多いようです。敷地面積としては300〜350m2程度ということになります。一面道路、二面道路(角地を含む)があり、それぞれ東西南北の接道が想定でき、多様なパターンが考えられます。また、敷地の一部を緑地スペースとし、建築物を制限することも考えられます。

<延べ面積>
要求される延べ面積は180m2〜220m2の出題が最も多く、近年の出題では最高250m2、最低はピアノ教室併用住宅の150m2〜190m2です。A2の答案用紙に作図するため、これ以上に大きな敷地面積や延べ面積では用紙に納まらないことも面積範囲を制限していると思われます。

<所要室>
親世帯、子世帯のどの居室が専用なのか共用なのかによって異なりますが、住宅の基本条件として、玄関、居間、食事室、台所、夫婦室、高齢者室、子供室、予備室、納戸、浴室、洗面脱衣室、洗面所、便所などがあります。特に居間、食事室、台所は1室としてもよいと条件されることも考えられます。これに趣味室が加わり、趣味室に隣接したギャラリーや収納、洗面所、便所などが要求される場合も考えられます。それぞれの室機能を理解し、適切な動線計画ができるようになることが大切です。

<屋外スペース>
縁側、テラスなどの屋外スペースが要求されることが考えられます。

<駐車・駐輪スペース>
親世帯用、子世帯用それぞれ駐車スペース、駐輪スペースが要求されることが考えられます。
高齢者に特に配慮した場合、車椅子の利用も考えられ、乗降のための広い面積の駐車スペースが必要になります。

要求図面
平成16年以降、課題発表時に要求図面が指定されていましたが、昨年の平成19年は指定されず、本試験では、1階平面図兼配置図、2階平面図、立面図、矩計図、面積表に加え、2階床伏図兼小屋伏図が指定されました。今年も指定がなかったことから、本試験の問題を見るまで描く図種が分かりませんが、おおよそ昨年と同様と考えられます。しかし、断面図もあわせて描く練習をしておく必要があります。

平成16・17・19年には「2階床伏図兼1階小屋伏図」が要求されています。木造の軸組を表現する上で重要な図面であるため、今後も要求される可能性が高いと考えます。特に今年の課題においては、 1階に趣味室が要求されると考えられ、2階住宅の室面積と差があることが考えられ、2階床梁の構成が重要なポイントになるでしょう。

過去の類似課題
過去の出題を振り返ってみると、平成17年に出題された「近隣の街並みに配慮した車庫付二世帯住宅」、平成12年の「趣味(音楽)室のある親子二世帯住宅」が今年の課題に類似しています。過去の出題は、建物全体の面積構成、所要室の要求など参考にできることも多く、概要を示しておきます。

平成17年の課題概要 近隣の街並みに配慮した車庫付二世帯住宅(木造2階建)
敷地 18.00m×17.00m 306.00m2(一部を植栽スペースとして利用)
接道:西側(幅員6.0m)
延べ面積 180m2以上220m2以下
家族構成等 親世帯:夫婦(70歳代)
子世帯:夫婦(40歳代)、子供(女子中学生、男子小学生)
所要室
1階
夫婦室、和室、玄関、居間・食事室・台所、浴室、洗面脱衣室、便所、納戸、自動車車庫
2階
夫婦室、子供室(1)、子供室(2)、洗面所、便所
駐車、駐輪スペース 乗用普通自動車3台

平成12年の課題概要 趣味(音楽)室のある親子二世帯住宅(木造2階建)
敷地 16.50m×20.00m 330.00m2
接道:西側(幅員6.0m)
延べ面積 180m2以上210m2以下
家族構成 親世帯:夫婦(60歳代)、子世帯:夫婦(40歳代)、子供1人(女子中学生)
所要室
1階
玄関ホール、居間、食事室・台所、趣味室、夫婦室(親世帯)、浴室、洗面脱衣室、便所、納戸
2階
夫婦室(子世帯)、子供室、和室、洗面所、便所
駐車、駐輪スペース 小型乗用車(5人乗り)1台分











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